本というのは、読む時代によって感じ方が変わってくるものだ。その時の自分の感性に合う本は好きになるし、そうでない本は、まだ読むべき時期ではなかったか、あるいはその時期がもう過ぎ去ってしまったのかもしれない。そういう意味でも、この本は初めて読んだ数年前もそして今も私に不思議な青春の香りを感じさせてくれる。
ノンフィクションライターの沢木耕太郎さんのエッセイ集「象が空を」の第3部がまとめられた文庫本です。
私は沢木耕太郎が大好きで、ほとんどの作品を読み、買い漁ったのですがその中でも特に好きで何度も読み返している一冊です。
このエッセイ集は短い内容のものが多くて、ちょっとした時間で1文章を読めます。集中力がないので、そこも好きな理由の一つかもしれません。
沢木氏の生活、取材、執筆の過程から切り取られた、1つの小説作品にするほど大げさではない一コマが、小気味いい文章で綴られています。
「私にわかっていることは」「ラジオからの声」「振り向けば老人」など、短いながらハッとさせられる何かしらの核心をついているものも去ることながら、一番好きなのは、「大人になるということ」という短編です。
著者が、曰く”中途半端な”青春を終えることになった、大学卒論の執筆でのエピソード。
かりに、ひとりの人物が生きることに悩みを抱いていたとして、誰がその悩みに十全に堪えうるだろう。他人の目にはいかにありきたりなものに映ろうとも、この世にはひとつとして同じ悩みなどというものはない。その悩みは彼だけのものであり、彼の個性と同じように個別的なものであり、結局、彼以外の誰にも答を見つけることはできないのだ。
誰もがいつか直面する大人へ一歩近く瞬間が、鮮やかに切り取られています。
などと言いつつ、私自身が、頭だけでなく「実感」としてこの言葉を理解できているのかどうかは、自分でもわかりません。
ブックオフでたまたま見つけた日が懐かしいな。
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